カスタマーハラスメントとクレームの違いとは?企業ができる対策も解説
コールセンターやカスタマーサポートの現場において、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策は、従業員を守り、組織の健全な運営に欠かせない経営課題です。顧客からの厳しいご指摘はサービス改善のヒントとなる「宝」である一方、度を超えた攻撃は従業員の心身を深く傷つけ、離職や生産性低下の直接的な原因となります。
今回の記事では、カスタマーハラスメントと正当なクレームの明確な違いや判断基準、カスハラを放置するリスクなどを解説します。記事をお読みいただければ、カスハラへの対応方針を固め、オペレーターが安心して働ける環境を整備するための具体的なアクションが見えてくるでしょう。
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは?

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客や取引先などからの著しい迷惑行為や、悪質な要求のことです。近年、このカスハラが社会問題として大きく取り上げられています。
日本労働組合総連合会が2022年12月に公表した「消費者行動に関する実態調査2022」によると、直近3年間で業務中にカスハラを受けた経験がある人の割合は、調査対象者1,000人のうち675人に達し、半数を超えていることが明らかになりました。
被害の内訳を見ると、「暴言」が55.3%で最も多く、次いで「説教など、権威的な態度」が46.7%と続いています。
【出典】日本労働組合総連合会「カスタマー・ハラスメントに関する調査2022」
かつては「お客様は神様」という言葉が美徳とされ、顧客のどのような要望にも応えるのが良しとされる風潮がありました。しかし、従業員の人権や労働環境を守る意識が高まる現代において、その考え方は通用しなくなりつつあります。
特に大きな転換点となったのが、令和7年(2025年)6月11日の法改正です。「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」が公布され、カスタマーハラスメント防止措置を講じることが、事業主の法的な義務として明記されました。
これにより、カスハラ対策は単なる「努力目標」ではなく、企業が必ず取り組まなければならない「法的義務」となったのです。
カスタマーハラスメントと「正当なクレーム」との明確な違い
カスハラ対策を進めるうえで重要かつ難しいのが、「正当なクレーム」との線引きです。
まず「正当なクレーム」とは、企業が提供した商品やサービスに対する不備、欠陥、接客態度の不手際などに対する、正当な根拠に基づいた指摘や改善要求のことです。
例えば、「購入した食品に異物が混入していたので交換してほしい」「約束の時間にサービスが提供されなかったので返金してほしい」といった要求は、正当な権利の行使です。企業側も誠意をもって対応すべき事案といえます。
一方、「カスタマーハラスメント」とは、要求の内容が著しく妥当性を欠いていたり、要求を実現するための手段や態様が社会通念上不相当なものであったりする行為を指します。
つまり、商品やサービスの改善を求めること自体が目的ではなく、従業員を困らせること、ストレスを発散すること、あるいは不当な金品を得ることなどが目的化しているケースが多く見られます。
| 項目 | 正当なクレーム | カスタマーハラスメント |
|---|---|---|
| 目的 | 問題の解決、改善の要求 | 嫌がらせ、憂さ晴らし、不当な利益 |
| 内容 | 事実に基づく指摘、妥当な要求 | 事実無根、過剰な要求、人格否定 |
| 手段 | 常識的な範囲での対話 | 暴言、威圧、脅迫、長時間拘束 |
| 企業への影響 | 成長・改善の機会 | 従業員の疲弊、業務妨害 |
カスタマーハラスメントとクレームを見極める3つの境界線
現場の管理者が、オペレーターからの報告を受けて「これはカスハラだ」と即座に判断するためには、明確な基準が必要です。厚生労働省のマニュアルや過去の裁判例などを踏まえると、主に3つの要素が判断の境界線となります。それぞれ詳しく解説します。
①要求の妥当性
顧客の要求している内容が、企業の過失や責任の範囲と釣り合っているか、という基準です。
たとえ企業側に何らかのミスがあったとしても、そのミスに対してあまりにも過大な補償を求める行為は、要求の妥当性を欠いていると判断されます。
- 金銭要求:商品代金の返金だけでなく、迷惑料や慰謝料、交通費などを不当に要求する場合。
- 特別扱いの強要:自社の規定やルールを無視して、「俺だけ特別に対応しろ」「社長を出せ」と強要する場合。
- 土下座の強要:謝罪の意思表示として、土下座などの屈辱的な行為を求める場合。
- 解雇の要求:対応した担当者を「クビにしろ」「辞めさせろ」と人事権に介入するような要求をする場合。
これらの要求は、本来の「問題解決」という目的から逸脱しており、カスハラと判断される可能性が高い言動です。
②要求手段や態度の社会通念性
たとえ要求の内容自体に一定の理があったとしても、その伝え方や態度が暴力的、威圧的であれば、それはカスハラとなります。「怒鳴る」「大声を出す」といった行為はもちろんですが、以下のような言動も該当します。
- 暴言・侮辱:「バカ」「死ね」「役立たず」といった人格を否定する言葉や、名誉を毀損する発言。
- 脅迫・威嚇:「SNSでさらすぞ」「店を潰してやる」「殺すぞ」「反社の知り合いがいる」などと恐怖心を与える発言。
- 執拗な責め立て:些細なミスを揚げ足取りし、長時間にわたって責め続ける行為。
- セクシャルハラスメント:身体的な特徴への言及や、性的な発言、執拗な食事への誘いなど。
また、電話口で机を叩く音をさせたり、意図的に無言を続けたりといった威圧的な態度も、従業員に精神的な苦痛を与えるものであり、看過できるものではありません。
③時間の拘束性
対応にかかる時間や頻度が、業務に支障をきたすレベルであるかどうかも重要な判断基準です。
正当な理由なく、長時間にわたって電話を切りたがらない、あるいは一日に何度も電話をかけてくるといった行為は、業務妨害の一種とみなされます。
- 長時間拘束:同じ主張を繰り返し、1時間、2時間と電話をつなぎ続ける行為。明確な時間基準はありませんが、一般的に30分〜1時間以上同じ話がループするようであれば、対応を打ち切る検討が必要です。
- 頻繁な架電:解決済みの案件について何度も電話をしてきたり、毎日決まった時間に電話をかけてきて業務を妨害したりする行為。
他の顧客への対応時間を奪い、コールセンター全体の生産性を著しく下げるこれらの行為は、立派なハラスメントであり、毅然とした対応が求められます。
カスタマーハラスメント対策を怠る企業が負う3つのリスク

「お客様だから多少のことは我慢しよう」「波風を立てたくないから、現場でうまく処理してほしい」などと、企業がカスハラを放置した場合、現場の問題にとどまらず、経営そのものを揺るがす深刻なリスクに発展する可能性があります。
リスク①従業員のメンタルヘルス悪化と離職率の増加
最も直接的かつ深刻なリスクは、従業員の心身の健康被害です。
連日のように暴言を浴びせられたり、理不尽な要求に対応させられたりすることは、オペレーターにとって強烈なストレスとなります。自尊心を傷つけられ、恐怖を感じ続けることで、うつ病や適応障害などのメンタルヘルス不調を発症するケースも少なくありません。
また、「会社は自分を守ってくれない」という不信感は、従業員満足度を著しく低下させてしまいます。コールセンターは人材の流動性が高い職種ですが、カスハラが横行する職場では、優秀なベテランオペレーターまでもが疲弊して去っていき、常に新人教育に追われるという悪循環に陥ってしまいます。
リスク②法的リスク(安全配慮義務違反)
企業には、労働契約法第5条に基づき、労働者が生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務(安全配慮義務)があります。
もし、企業がカスハラの事実を認識していながら適切な対策を講じず、その結果として従業員が精神疾患を発症したり、自殺に追い込まれたりした場合、安全配慮義務違反として損害賠償請求を受けることになりかねません。
カスハラ行為そのものが、刑法上の威力業務妨害罪、強要罪、恐喝罪、侮辱罪などに該当するケースも存在します。企業としては、従業員を守るために警察と連携し、刑事告発を行うべき局面もありますが、対策を怠ることは、こうした犯罪行為から従業員を保護する責任を放棄しているとみなされかねません。
コンプライアンスが重視される現代において、カスハラ対策は法的義務を果たすための必須事項といえます。
リスク③企業イメージの低下と生産性の悪化
カスハラへの対応に時間と労力を割かれることは、企業全体の生産性を大きく低下させます。
一人のクレーマーへの対応に数時間もかかれば、その間、他の善良な顧客からの電話がつながらなくなり、本来提供すべきサービスの品質が低下してしまいます。これにより、一般的な顧客の満足度が下がり、「この会社は電話がつながらない」「対応が遅い」といった悪評が広まるリスクも否定できません。
また、近年では、カスハラ加害者が自身の行為を棚に上げ、「企業の対応が悪かった」などとSNSや動画サイトで拡散するケースも見られます。一方的な情報拡散による炎上リスクに備えるためにも、毅然とした対応方針と、事実を客観的に証明できる体制(通話録音など)を整えておくことが重要です。
カスハラ電話発生時の対処ステップ
実際にカスハラ電話が発生した場合は、適切に対応するために、あらかじめ対処フローを明確にしておきましょう。それぞれの対処ステップについて詳しく解説します。
ステップ①傾聴と謝罪(一次対応)
電話を受けた当初は、相手が正当なクレームを言っているのか、カスハラなのかの判断がつきません。まずは「正当なクレーム」である可能性を前提に、真摯な姿勢で対応します。
相手の言い分を遮らずに最後まで聞き(傾聴)、不快な思いをさせたことに対して「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません」と限定的な謝罪を行います。ここでの謝罪は、相手の主張をすべて認めるものではなく、「不快にさせた事実」への共感を示すものです。
この段階で事実確認を行い、こちらの不手際であれば誠意を持って対応します。しかし、相手の要求が理不尽であったり、暴言が始まったりした場合は、次のステップへ移行しましょう。
ステップ②境界線の見極めと警告
対話の中で、「3つの境界線(妥当性・社会通念性・拘束性)」を超えたと判断した場合、通常のクレーム対応からカスハラ対応へと切り替えましょう。ここで重要なのは、毅然とした態度で「警告」を行うことです。
- 「お客様、そのような大声を出されますと、通常の対応ができかねます」
- 「そのような暴言を続けられるようでしたら、お電話を切らせていただきます」
このように、相手の行為が問題であることを指摘し、改善されなければ対応を打ち切る旨を予告します。これは、電話を切るための正当な理由作りでもあります。
ステップ③上司(管理者)へのエスカレーション
警告しても相手の言動が改善しない、あるいはオペレーター単独では対応しきれないと判断した場合は、速やかに上司(管理者)へエスカレーションします。
「担当者が一人で抱え込まない」ことが鉄則です。上司が出ることで、組織として対応している姿勢を示し、相手のクールダウンを促す効果も期待できます。
相談を受けた上司は、これまでの経緯をオペレーターから引き継ぎ、冷静に相手の主張確認を行います。そのうえで、やはりカスハラであると判断した場合は、組織の代表として毅然と対応しましょう。
ステップ④最終通告と電話の切断
上司へのエスカレーション後も、理不尽な要求や暴言、長時間の拘束が続く場合は、最終通告を行います。
- 「これ以上の対応はいたしかねますので、お電話を切らせていただきます」
- 「これ以上続くようでしたら、警察に通報させていただきます」
このように明確に伝え、電話を切断します。
ここで重要なのは、躊躇せずに切ることです。「お客様だから」と遠慮してズルズルと引き伸ばすことは、相手の行為を助長させるだけでなく、現場の疲弊を招いてしまいます。切断後は、速やかに対応記録を残し、必要に応じて弁護士や警察への相談準備を進めましょう。
企業が今すぐ整備すべき4つのカスハラ対策
カスハラは、現場の個人のスキルだけで解決できる問題ではありません。従業員が安心して働けるよう、以下の4つの対策を早急に進めましょう。
対策①対応マニュアルの作成と組織内での周知
まず取り組むべきは、カスハラ対応の基準と手順を定めたマニュアルの作成です。
「どのような言動があればカスハラとみなすか」「どの段階で上司に代わるか」「誰の判断で電話を切ってよいか」といったルールを明確化します。
特に、「電話を切る」という行為はオペレーターにとって心理的ハードルが高いものです。「こういう場合は切ってもよい」と明文化されていれば、現場は迷わずに対応できます。作成したマニュアルは全従業員に周知し、いつでも参照できるようにしておきましょう。
対策②オペレーターへの研修・教育の実施
マニュアルを作成するだけでなく、実践的な研修を通して対応スキルを身につけさせることも重要です。カスハラの定義や法的知識を学ぶ座学に加え、実際に暴言を吐かれる場面を想定したロールプレイング研修が効果的です。
「殺すぞ」と言われたときにどう返すか、「社長を出せ」と言われたときにどう断るか、具体的な切り返しトークを反復練習すれば、いざという時に冷静に対処できるようになります。また、研修を通じて「会社はカスハラを許さない」といった姿勢を伝えることは、従業員の安心感にもつながる重要な取り組みといえます。
対策③「通話録音」による証拠保全の仕組み構築
カスハラ対策において、最も強力な武器となるのが「記録(証拠)」です。「言った・言わない」の水掛け論になった際、客観的な証拠がなければ、企業側が不利な立場に立たされることもあります。また、警察に被害届を出す際にも、具体的な音声データは不可欠です。
そのため、全ての通話を自動で録音できるシステムの導入は必須といえます。通話開始時に「品質向上のため、通話を録音させていただきます」というアナウンスを流すことも有効です。やましい目的があるクレーマーに対しては、このアナウンス自体が強力な抑止力となり、通話を諦めさせる効果も期待できます。
対策④IVR導入による悪質なカスハラのブロック
IVR(自動音声応答)を導入し、「〇〇に関するお問い合わせは1番を」といったガイダンスを挟むことで、感情的になっている顧客にワンクッション置かせ、クールダウンさせる効果があります。
また、非通知着信の拒否や、過去にトラブルになった特定の電話番号からの着信をブロックする機能を活用すれば、悪質なクレーマーとの接触機会そのものを減らすことが可能です。
水際での対策を強化することは、オペレーターの精神的負担を軽減する上で非常に効果的です。IVRについては以下の記事で解説していますので、参考にしてください。
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カスハラ対策の「仕組み化」はアライブネットにお任せください!
カスハラ対策は、マニュアル作成や研修といった「人」への対策と、システムによる「環境」への対策の両輪で進めることが重要です。アライブネットでは、コールセンター運営の現場で培ったノウハウと最新のテクノロジーで、従業員を守るための強固な体制構築を支援します。
アライブネットが提供するクラウド型CTIシステム「Voiper Dial」は、カスハラ対策に不可欠な機能を標準搭載しているのが特徴です。まず、「全通話録音機能」により、すべての通話を自動で記録・保存します。特別な操作は不要で、聞き漏らしの確認だけでなく、万が一のトラブル時の証拠として確実にデータを残すことが可能です。
また、管理者がリアルタイムで通話を聞ける「モニタリング機能」や、顧客に聞こえないようにオペレーターへ指示を出せる「ささやき機能」も備えています。「一人ではない」という安心感は、オペレーターの負担を大きく軽減させられます。
さらに、IVR(自動音声応答)機能を活用すれば、迷惑電話や悪質なクレーマーをオペレーターにつなぐ前にブロックしたり、自動音声で対応したりすることも可能です。自社の従業員が生産性高く、安心して働くためにも、ぜひ一度アライブネットまでご相談ください。
